見物人の頭のなか

映画と美術展などの感想。

感染地図―歴史を変えた未知の病原体ーを読んで

すみません、以下は自分用のメモなのでネタバレしています。

未読の方は読むと面白さが半減してしまうと思いますので、ご注意ください。

 

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<どういうことが書かれていたか>

 1854年、ロンドンの貧民街でコレラが発生した。当時は微生物の存在も知られておらず、コレラの感染は瘴気<におい>のせいだと多くの人々が信じていた。それもそのはず、都市の排泄物処理機能は人口の急増に追いついておらず、ロンドンには汚物の臭気が立ち込めていたのだ。しかし、長年コレラの感染経路を追いかけていたジョンスノーという医師はある一つの仮説を持っていた。臭いではなく、排泄物が混じった水が原因なのではないか、と。

 彼は水の成分分析や周辺住民への聞き込みなどを通したミクロの視点と統計データを活用したマクロの視点から疫病流行の原因に迫る。さらに、後半には彼の説を支持する牧師もあらわれ、インデックスケースを発見。水感染説を強固なものとする。この説は、ジョンスノーの死後次第に認められていき、その後の都市における公衆衛生のあり方も変えることとなった。

 

<何を学んだか>

 ・1800年代のロンドンの衛生環境の劣悪さ

 当時は汚物の回収を下肥屋という職種が請け負っていたが、産業革命による人口急増に伴い処理システムがキャパオーバー。窓から糞だめと化した中庭に汚物を投げ捨てたり、下水道がちゃんと整備されておらず排泄物が飲料水として利用される井戸に混じったりと衛生状態が最悪であった。

 しかも、時の衛生局長は匂いを諸悪の根源とみなしていたので、汚物を街からなくすべくテムズ川に溜まった排泄物を流すことにしたそう。で、結局テムズ川はどろどろに汚染され、猛暑の日にはバクテリアが繁殖。国会が休会に追い込まれるほどの臭いを放つこともあったという。恐ろしい。

・証拠は「例外」の中にある

 ジョンスノーは麻酔医として成功していながら長年コレラを追いかけ、水に溶け込んだ排泄物が原因だということを突き止めた。彼はソーホーでの疫病流行が起きる前からこの仮説を持っていたようである。彼の素晴らしい点は、2つ。まず、微視的な目と鳥瞰的な目の両方で調査を行っている点だ。死者の家族に対する聞き込みで何の飲料水を使っていたかを調査し、井戸の水の成分を分析した。その結果、めぼしい結果は得られず問題解決に詰まっていたところ、ファーが刊行する死者の統計データの活用を思いついた。最終的には、偏見的な常識が支配する中で、自身の説を科学的に証明した。

 私は、ストーリーありきでデータを見て例外を切り離してしまうことの危険性を学んだ。むしろ、彼の調査方法は例外を重視していた。本当に瘴気説が正しいならば、こんな事例は出ないのでは…?その逆転の発想がスノーの仮説の立証に役立ったのである。

「みんなが言っているから正しい」は証明されていなければただの推測にすぎない。

彼の姿勢を見習いたい。

 

<浮かんだ疑問>

・現在の下水処理はどうなっているのか?

・細菌が浮かんでいるDNAを取り込み、自身を進化させることができるという部分がよくわからなかった。DNAって体内から出た時点で消滅しないのか?

どうやって取り込むんだろう

・ウイルスは他のウイルスの性質を取り込んで進化することがあるという。

それが本当ならば、現在流行しているコロナウイルスがより致死性の高いものに変わる可能性はあるのか?

・今回のコロナウイルスは人口が密集して住むようになったことによるパンデミックなのだろう。これを受けて、今後都市から人口は流出するだろうか。それとも今のまま増え続けるのだろうか。(東京って1300万人も住んでるのか)

 

<さらに知りたい分野>

・現在は大英帝国時代の社会史というテーマで本を読んでいるので、それを継続したい。

・公衆衛生について興味が沸いた。

コレラ以外の感染病の歴史

微生物学

 

<次読む本(推薦図書から)>

 ・当時のロンドン労働者階級の生活を書いた本⇒メイヒュー、ディケンズ

 ・都市化の影響⇒田舎と都会