見物人の頭のなか

映画と美術展などの感想。

感染症は世界史を動かすを読んで

 

 

<どういうことが書かれていたか>

 これまで感染症が人間社会にどういう爪痕を残してきたか、それに対して人間はどう立ち向かったのかを俯瞰した本。主にハンセン病、ペスト、梅毒、結核スペイン風邪新型インフルエンザに焦点を当てて書かれている。 

 

<何を学んだか>

・中世にハンセン病にかかったら助かる見込みがない

 中世ヨーロッパではハンセン病が慢性的に流行していたが、まだ科学的な治療法は確立していなかった。感染拡大を防ぐ唯一の方法は感染者を都市社会から追放し、隔離施設に追いやることだったのである。感染者はそこで絶望の淵に沈みながら、ただひたすら神による奇跡を待ち、死んでいったのだ。このころに立てられた教会には、そういった人々の切実さがあらわれているように思う。

 

感染症はその時代の社会構造や民衆の生活と密接にかかわっている。

 第三章の梅毒は良い例だと思う。1495年、時は大航海時代、梅毒は船に乗ってヨーロッパに運ばれた。その後ヨーロッパ各地で猛威を振るうこととなる。文化としては、芸術が花開いたルネサンス期である。当時、売春などは普通に行われていたようで、性に奔放だった。その理由の一つには、職人は親方になるまで妻帯不可だったことや聖職者にも情婦を買うことが許されていたことなどがあったという。感染症が時代を投影するいい例である。

 

・インフルエンザのワクチンができるまで

 ワクチンを毎年打つのは、1年で効果が切れるからだと思っていたが違っていた。ウイルスはRNAかDNAのどちらか一方しか持たないため、宿主の細胞の機能を借用して自身を複製する。さらに、インフルエンザウイルスの遺伝子はRNAで、遺伝子の読み違いなどに対する修復機構を持たない。そのため、遺伝子変異が起こりやすいのだ。その変異に対応するため、人々はインフルエンザウイルス流行状況の定点観測しデータや、ウイルスの遺伝子情報の解析データ、各国の疫学情報などを使い、来年の流行予測をたてるという。ワクチンというのは氷山の一角に過ぎなくて、そこには多くの人々が関わっているのだ。知らなかった。いつも同じものを打たれているのだと思っていた。

 

<浮かんだ疑問>

新型コロナウイルスが人間への感染を繰り返す中で、さらに病原性の強いものが表れたりするのだろうか?

 

<さらに知りたい分野>

・時代ごとに感染症を俯瞰したものも読みたい。(時代が飛び飛びで少しわかりづらかったので)

 

<次読みたい本(参考図書から)>

産業革命と民衆

結核という文化

 

 読んでいる間、結構つらかったな。特に、第一章、第二章。苦しんでいる人を追放することで、他の集団を守るという方法しかなかったというのが読んでいてつらかった。それに、疫病の流行は目に見えないから余計に人の不安を掻き立てる様で、それに伴って起こる人災の凄惨さは疫病と同じくらいひどい(魔女狩りユダヤ人狩りなど)。

 新型インフルエンザの対策の章では、まさに今起きていることが予測されていて、すごいなと思った。現在日本は人口の0.005%くらいの感染者数なので、このまま抑えきってほしい。ちなみに、フランスやアメリカは0.05%くらいだった。公衆衛生に関する正確な知識を共有出来ていることが大きいのかな。

 読書は想像力の幅を少し広げてくれる。良書でした。