見物人の頭のなか

映画と美術展などの感想。

茶の世界史-緑茶の文化と紅茶の社会-を読んで

 

茶の世界史 改版 - 緑茶の文化と紅茶の世界 (中公新書)
 

 

 

<どういうことが書かれていたか>

 第一部では、紅茶という切り口でヨーロッパの歴史を概観している。

 

 初めて茶がヨーロッパ史に現れたのは、16世紀のオランダの記録だった。その後、日本の鎖国に伴い、中国の茶がヨーロッパを席巻することとなる。17世紀にオランダが輸入し、そこからフランスやイギリスなどに伝わったといわれる。オランダが貿易王の座を失脚した後は、イギリスが主に中国から茶を輸入した。イギリスは飲み物がエールくらいしかなく、他の国よりも茶が流行。最初は非常に高価だったため上流者階級の間でたしなわれていたが、産業革命に伴い労働者階級の賃金が上昇し、茶が大衆化した。

 茶の需要は年々増える一方、中国は貿易に対して消極的だった。なぜなら、中国への対価として支払われていたのはアヘン(この辺はいろいろややこしい)だったからである。アヘンの流入は退廃を生み、これに危機感を募らせた中国は取り締まりを強化した。それを理由に1840年、イギリスはアヘン戦争をふっかけ、南京条約を締結。無理やり複数の港を開港させる。かたやインドでは1823年、イギリス人がアッサム茶を発見、栽培を開始。イギリスに輸出されるようになる。

 第二部では、日本の茶の世界進出とその失敗が書かれている。

 日本茶はイギリス、オーストラリア、アメリカ、ロシア、カナダへと輸出を試みたがインド紅茶や中国茶に敗北。世界は、すでに資本主義経済の真っただ中だったのだ。敗因は大きく分けて二つある。一つ目はそれまで鎖国しており、圧倒的に諸外国のマーケット情報や生活文化に関する情報が少なかったこと。もう一つは、インドの大規模経営による生産性の向上や健康へのメリットなど物質的な側面を巧みに押し出したマーケティングに勝てなかったことだと著者は分析する。日本茶は、茶の精神的な文化を押し出したが、物質社会である西欧諸国には響かなかった。

 

 

<何を学んだか>

 ・紅茶は昔からイギリスで飲まれていたと思っていたので、中国茶が始まりだったと知り驚いた。ますおさんもびっくり。「tea」という読み方は、当時オランダが取引していた福建省の方言が語源らしい。

 ・茶と砂糖の歴史が重い。ほんとに暗くなる。特に労働力確保のためにアフリカから奴隷を連れてきたり(砂糖)、近隣の町からの出稼ぎ民を過酷な環境で働かせたり(紅茶)。支配者の歴史だと感じた。機械への過渡期の過程で、どれだけの人間が命をすり減らしたんだろう。

 ・日本の素晴らしさは精神文化の豊かさにあるのだと思う。19-20世紀は物質社会にのまれ相手にされなかったが、今は精神的な文化に注目されつつある。

 ・自分は経済史にあまり興味がないのだなと感じた。知らないことを知れたという意味では楽しい読書体験だったが、どちらかという民衆の生活や風俗…なんだろう具体的なエピソードが知りたい。

 ・日本茶が輸入し始めたころ、西欧諸国では茶にミルクや砂糖を入れて飲むのが一般的だった。だから、彼らは緑茶にもミルクや砂糖を入れて飲んでいたのだという。そりゃはやらんわ…。まずそうだもの…。

 

<浮かんだ疑問>

・なぜ台湾ではお茶に砂糖を入れて飲むんだろう?紅茶の飲み方が関係している?

・アヘンを栽培していたインドは、アヘン漬けにならなかったのだろうか…。

・イギリスやフランスなどにおいて、日本における渋いけどうまいみたいな食べ物ってあるのだろうか。渋いものはうけないのかな。

 

<さらに知りたい分野>

・経済史ではなく、もっと民衆の生活が具体的に描かれた本 

 

<次読む本(推薦図書から)>

 ・なし、興味深かったが再読はない